キダルト消費事業企画開発、研修講演など|高橋晋平(おもちゃ専門家)
07 / 09 / 23おもちゃクリエーター/キダルト(kidult)専門家・評論家の高橋晋平です。
キダルト(Kidult。英語の “Kid”(子ども)と “Adult”(大人)を掛け合わせた造語)は、「大人になっても子どものような趣味・消費行動を続ける人々」を指します。
弊社代表、高橋晋平は2004年から活躍するおもちゃ・ゲーム開発者であり、数々のヒット商品を世に送り出しています。
2007年には「人間観察機 Human Player」「∞(むげん)プチプチ」を、2008年には「∞エダマメ」「5秒スタジアム」を手掛け、初期からキダルト消費に関わってきました。
各業界の企業で、キダルト消費研究の成果を講演したり、キダルト向け事業の企画開発支援を提供しています。
協業や、講演研修、取材執筆依頼などは以下より↓
https://www.secure-cloud.jp/sf/1545232090GAeHlkJK
以下は、キダルトについての簡単なまとめです。ぜひ参考にご一読ください。詳しくはぜひお問い合わせください。
「キダルトとは何か」
1. はじめに
現代社会において、大人が子ども時代の趣味や遊びを楽しむ姿はもはや特別な光景ではなくなりました。「キダルト(Kidult)」という言葉は、まさにこうした現象を端的に表す造語です。かつては「大人が子ども向けのものを楽しむなんて…」と否定的なイメージが強かったものの、オタク文化の台頭やSNSの普及、コロナ禍を経て、人々は積極的に玩具やアニメ、キャラクターグッズなどに“本気”でお金を投じ、楽しむようになりました。
本論考では、キダルトという言葉の定義や発祥・歴史から、その影響を受ける主要なビジネスカテゴリーと広義の意味、さらにはコロナ禍、SNSがもたらす影響、今後のビジネス展開に至るまでを総合的に考察していきます。
第1章:キダルトの概念と起源
2. キダルトの定義
「Kidult」とは、英語の “Kid”(子ども)と “Adult”(大人)を合わせた造語であり、基本的には「大人になっても子どものような趣味や消費を楽しむ人々」を指します。しかし、最近ではより広い意味合いで、「大人ならではの経済力や人生経験をもって、本気で遊びや趣味に興じる人全般」をも含むようになりつつあります。
- 狭義: キャラクターグッズや玩具、漫画・アニメ・ゲームなど、もともと子ども向けとされていたコンテンツを大人が楽しむ消費スタイル。
- 広義: 「大人が遊ぶ」こと自体を積極的に評価し、余暇や趣味を子どものように無邪気に楽しむ姿勢をもつ人々。
大人が子ども向けのコンテンツを楽しむことは、もはや「幼稚な行為」ではなく、自己表現や余暇の充実、ストレス解消などの目的として肯定されるようになりました。
3. 言葉の発祥
「Kidult」という言葉の正確な初出ははっきりしていませんが、欧米のマーケティング領域では2000年代前半に「Kidult Marketing」という形で使われていたといわれています。「子どもの感性を持つ大人」をターゲットに商品やサービスを訴求する戦略が議論され、日本でも2000年代中頃からメディアで散発的に紹介され始めました。2010年前後にはオタク文化やキャラクター産業の隆盛と相まって、より一般的な認知を得るようになります。
第2章:キダルトの歴史と社会背景
4. キダルトの歴史
4.1 昭和・平成初期の「子ども向け」イメージ
かつて日本においては、大人が「子ども向け」と思われるものに興じることは社会的に敬遠されがちでした。特に昭和から平成初期にかけては「大人らしさ」を重んじる風潮が強く、漫画やアニメに熱中する行為は一部の“オタク”に限られていたのが実情です。
4.2 オタク文化の一般化
1990年代半ば以降、漫画・アニメ・ゲームを楽しむ「オタク」層がメディアに取り上げられ始め、徐々に社会的な市民権を得ます。秋葉原の観光地化やコミックマーケットの大規模イベント化を経て、オタク文化そのものがポップカルチャーとして認められ、成人層が積極的にアニメやフィギュアを楽しむ土壌が形成されました。
4.3 グローバル化とSNS
2000年代にはインターネットとSNSの普及が本格化し、ディズニーやマーベル、スター・ウォーズなど世界的なコンテンツを大人が共有・共感する流れが可視化されていきます。世界規模で“同じ趣味を持つ仲間”と繋がれるようになり、大人が子ども向けコンテンツを楽しむことへの抵抗感がさらに薄れていきました。
5. キダルト需要の社会背景
5.1 余暇の充実と個人主義
ライフスタイルの多様化とともに、仕事だけでなく余暇や趣味に重きを置く人が増えてきました。自分のやりたいことに時間とお金を使う「個人主義」的な傾向が強まる中で、キダルト的な楽しみ方は自然と受容されていったと考えられます。
5.2 経済力と少子高齢化
日本では少子高齢化が進み、若年層市場が縮小する一方で、ある程度の経済力を持つ大人が消費の主役になりつつあります。必然的に「大人の購買意欲を刺激する商品」に注目が集まり、大人が好む子ども向けコンテンツ(昔ハマっていたアニメのグッズやリメイク作など)を積極的に提供する動きが広がっていきました。
第3章:主要なビジネスカテゴリーへの影響
6. 玩具・ホビー業界におけるキダルト
6.1 大人向けコレクターズアイテムの拡大
かつて玩具の主なターゲットは子どもでしたが、現在では大人向けの高価格帯フィギュアやプラモデル、鉄道模型などの市場が急拡大しています。映画やアニメとのコラボ商品、特別限定モデル、超合金シリーズなどはコアファンの収集欲をくすぐり、大きな売上を生み出しています。
6.2 新技術との融合
3DプリンタやAI、IoT技術の進化により、より精巧で個人カスタマイズが可能なホビー製品が登場。ラジコンやドローンなどもスマホ連動が一般化し、大人が最新テクノロジーを用いて遊ぶ時代となっています。
6.3 今後の展望
- 限定商品・プレミアム商品: 経済力を持った大人向けに高単価の限定アイテムやコレクターズエディションが増加。
- AR/VRの活用: スマホやゴーグルを通じて仮想空間でも楽しめる玩具やゲームが広がる。
- コミュニティ重視: SNSやイベントを通じてユーザー同士が繋がりを深め、ファンコミュニティから派生する二次消費(関連グッズ、イベント参加など)も増えていく見込み。
7. エンターテインメント・コンテンツ産業
7.1 アニメ・映像
子どもだけでなく、広範な年齢層にアピールするアニメが増え、映画や配信プラットフォームで「大人も感動するストーリー」が重視されています。Pixar作品(『トイ・ストーリー』など)は典型例として「子どもも楽しめるが大人にも響く」物語を提供し、グッズ販売やイベント来場などで大きな消費を喚起しています。
7.2 ゲーム産業
Nintendoの『スーパーマリオ』や『ゼルダの伝説』などは、子どもから大人まで世代を超えて愛されるタイトルです。スマートフォン向けゲームアプリも、幅広い年齢層を取り込みながら、課金モデルで収益を生み出しています。大人ゲーマーが増えることで、ゲーミングPCや関連デバイス市場も活況を呈しています。
7.3 音楽・イベント
ライブやフェスで子どもの頃に憧れたアーティストを“推し”として再び応援する、あるいはアイドルやアニメソングのコンサートに社会人が大挙して訪れるといった現象もキダルト的消費行動の一例です。さらに、2.5次元舞台やVTuberライブなど、新しい領域との融合が活発化しています。
8. その他の業界への波及
8.1 ファッション・アパレル
ユニクロやGUなどのファストファッションから、ハイブランドに至るまで、キャラクターコラボやアニメコラボ商品を積極的に展開する例が増えています。大人が普段着として抵抗なく着られるデザインが支持を得ており、限定Tシャツの発売時には行列ができるなど大きな盛り上がりを見せます。
8.2 飲食・テーマパーク
キャラクターコラボカフェや期間限定レストラン、テーマパーク(ディズニーリゾート、USJなど)は、キダルト消費を意識して「大人も来たい!」と思わせる施策を多数仕込んでいます。SNS映えを狙ったグルメやフォトスポットもその一環で、大人の顧客がテーマパークに訪れる理由になっています。
8.3 アウトドア・DIY
一見、子ども向けとは離れているように思われる分野でも、広義のキダルトとしての需要が大きくなっています。キャンプや車中泊、DIYなど「手作り感」を楽しむ大人たちは、玩具やキャラクター好きとはまた異なるベクトルで「遊び心」を満喫しており、結果的にキダルト市場の裾野を広げる役割を果たしています。
第4章:広義のキダルト文化とその社会的意義
9. キダルトを広義に捉える意義
近年のキダルトは、単に「子ども向け商品を買う大人」という狭義の捉え方にとどまりません。
- 余暇を心から楽しむ大人
- ストレス解消の手段として本気で趣味に没頭する大人
- 子ども時代の感性を成長させた形で創造的活動に取り組む大人
こうした姿は、自己実現や個性の尊重を重視する現代の価値観と合致しています。つまり、「キダルト=子ども心が抜けない大人」というよりは、「大人としての成熟や経済力を背景に、意図的に楽しむことを選択する人々」として再評価されつつあります。
10. オタク文化・推し文化との関係
オタク文化の一般化に伴い、大人がアニメや漫画、アイドルを“推し”として支える風潮は一段と高まりを見せています。2.5次元舞台や声優イベント、VTuberなどの新興領域も含めて、推し文化は「大人が真剣に費やす趣味」として認知され、“オタク”や“キダルト”といった枠組みをより広範に巻き込んで成長しています。
第5章:時代背景—コロナ禍とデジタル化がもたらした変化
11. コロナ禍による影響
2020年ごろから続くコロナ禍は、外出制限やリモートワークの普及によって「巣ごもり需要」を生み出しました。自宅での時間が増える中で、
- テレビゲーム、ボードゲーム、プラモデルなどを楽しむ人が拡大
- オンラインライブやバーチャルイベントに参加する大人が急増
- コレクターズアイテムや趣味のグッズ購入によるストレス解消や生活の質向上に注目
といった動きが顕著に表れ、キダルト消費に拍車がかかりました。
12. スマートフォン・SNS・ショート動画の普及
スマートフォンを通じて手軽にゲームを楽しむ層が増えると同時に、Twitter、Instagram、TikTokといったSNSは個人の趣味を共有・発信する場として定着。特にショート動画はお気に入りのグッズ紹介やオタ活レポート、アウトドアギアレビューなど「面白いものをちょっと見せ合う」文化を加速させ、視聴者の購買意欲を刺激します。SNSで共感を得られること自体が、キダルト的な楽しみを社会的に肯定する要因となっているのです。
第6章:キダルトがもたらすビジネスチャンス
13. いま注目される戦略
13.1 コミュニティ形成
キダルト層が集うファンコミュニティやSNSグループを公式にサポートし、そこに向けて情報や限定商品を提供するマーケティング手法が有効です。コミュニティ内での商品紹介や口コミがブランドロイヤルティを高め、継続的な売上に結びつきます。
13.2 体験型・参加型コンテンツ
オンライン・オフラインを組み合わせたイベントやワークショップ、ゲーム大会など、「体験」を提供する施策に大人は積極的に参加します。ファン同士の交流や実際に体を動かして楽しむコンテンツは満足度が高く、一度ハマるとリピート率も高まります。
13.3 カスタマイズやコラボ企画
大人向けにはやはり「特別感」「希少価値」が強い訴求力を持ちます。数量限定カラー、コラボモデル、個人仕様にカスタムできるアイテムなど、差別化要素を提供することでより高額な商品であっても購入につながりやすい傾向があります。
13.4 新技術・メタバースの活用
ARやVR、メタバースを活用した商品・イベントは、新鮮な体験として大人層も興味を持つ領域です。NFTやオンライン空間上での限定販売など、新規性のある取り組みは話題性と集客力を兼ね備えた戦略となり得ます。
14. 今後の可能性と注目分野
- デジタルホビー: AIを搭載した玩具やIoTデバイス、メタバース内コレクションなど。
- エンタメ教育(ゲーミフィケーション): 子ども向けと思われがちな教育×エンタメを大人も楽しめる形に発展させる。
- サブスク型コミュニティ: 限定的なコミュニティで情報や特典を提供し、ロイヤルユーザーを囲い込む。
- ジェンダー多様化とサステナビリティ: 性別を問わず、環境に配慮しながら楽しめる商品・サービスの需要が高まりつつある。
第7章:キダルトの未来
15. まとめと展望
かつては「大人なのに子どもっぽい趣味を続ける」ことに対して、社会的にネガティブな見方が多くありました。しかし、オタク文化の台頭とSNSの普及、さらにコロナ禍という未曾有の事態を経験する中で、人々の生活は「楽しみ・趣味」の価値を見直す方向へシフトしました。大人であっても自分の好きなことにお金と時間を投じ、コミュニティやSNSで仲間と共有して楽しむことが、ストレスフルな社会を乗り切る手段にもなっています。
企業や地域活性化の場においても、このキダルト需要を意識した取り組みが続々と展開されています。今後はAIやAR/VR、メタバースなどの新技術を活用した次世代のキダルト向けサービスが生まれることが期待されており、またジェンダーや環境といった社会的関心にも配慮した新たな形の「大人の遊び」市場がますます活性化していくことでしょう。
キダルトは、「ただ大人が子ども向けのものを楽しんでいる」だけではありません。そこには経済力や高い情報感度を持つ大人が真剣に情熱を注ぎ、自己表現や人生の豊かさを追求している姿があるのです。モノ消費からコト消費、そして共感や共有を重視する社会において、キダルトはこれからも多様な形で広がりを見せ、ビジネスや文化全体を牽引する大きなトレンドとなり続けるでしょう。
参考になる追加視点
- 地域創生との連携: 地方のレトロゲームセンターやご当地キャラクターが「観光」と結びついてキダルトを呼び寄せるケース。
- 職場環境との絡み: 社員のクリエイティビティ向上やリフレッシュのために、オフィス内にゲームルームやホビーエリアを設ける企業事例も増加。
- ストリーミングプラットフォーム: NetflixやDisney+などの台頭で、大人が子ども向け作品を手軽に見ることも定着。オリジナルコンテンツ制作によってさらにキダルト層を取り込もうとする動きが活発化している。
おわりに
キダルトという言葉は、一見コミカルにも聞こえるかもしれませんが、その背景には現代社会の価値観の変化が如実に表れています。「大人が自分の好きなことに没頭する」ことは、今ではキャリアや社会的地位と同じくらい大切な自己実現の一部になりつつあります。ビジネスの場においても、文化・芸術の創作の面でも、キダルトに注目しない手はありません。ぜひ本論考を通じて、キダルト文化の奥深さを感じ取っていただければ幸いです。